【2019年4月法改正:①】フレックスタイム制-2
→【2019年4月法改正:①】フレックスタイム制-1 の続きです。
時間外労働の上限規制【2019年4月法改正】との関係
ここからは、フレックスタイム制を導入した場合の時間外労働(残業)について、2019年4月に改正された「時間外労働の上限規制」との関係をからめて見ていきます。
フレックスタイム制を適用していない(原則の労働時間制)場合/適用している場合で、総労働時間が同じにもかかわらず残業時間が変わってきますので、そのあたりに注目してみてください。
さて、前回(【2019年4月法改正:①】フレックスタイム制-1)登場したNG社労士受験生くん。
「6月にとことん頑張りぬく!よし、6月は1日16時間勤務だ!そうすれば試験の1カ月前は全休できる!」
と凄いことをさらっと言っていました。
例は極端ですが、この発言内容は、フレックスタイム制うんぬん以前に2019年4月施行の改正労働基準法「時間外労働の上限規制」(※中小企業への適用は2020年4月)の面からもアウトです。
ではどのようにアウトなのでしょう。フレックスタイム制を適用しない場合・適用する場合とでどのように残業時間が計算されるか、違いを見ながら、「時間外労働の上限規制」にどのように引っかかるのか検証してみましょう。
「時間外労働の上限規制」については別記事で。
1、社労士受験生くんにフレックスタイム制が適用されていない場合。(原則の労働時間制)
1日16時間勤務ということは、1日所定8時間勤務と仮定しても、ざっくり1日8時間が残業(法定時間外労働)となります。
その月の所定労働日数が22日とすれば、それだけで残業(法定時間外労働)時間数は 8×22=176 時間。
おやおや、「時間外労働の上限規制」による単月100時間未満という規制を(休日労働がなくても)かるく超えてしまいますね。だめだこりゃ。
2、社労士受験生くんにフレックスタイム制が適用されている場合。
清算期間を3ヶ月、その総労働時間を仮に520時間としましょう。
細かい運用1における「1ヶ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと」は具体的に何時間になるか、6月に当てはめて計算すると、
50時間×6月の暦日数30日÷1週間7日=214.2時間
が6月におけるフレックスタイム制の枠組みとなります。
清算期間がどうあれ、勤怠集計は1ヶ月ごとに計算していくのが原則。6月になんと 16時間×22日=352時間 というブラックを超えるまさに【漆黒】の勤務をこなした社労士受験生くんの場合、
352 - 214.2 = 137.8時間
が残業(法定時間外労働)ということになります。520時間という対象期間3ヶ月間の総枠を超える時間を計算する前に、6月の勤務のみで法定時間外労働が137.8時間ということです。
フレックスタイム制が適用されない場合の176時間と比べ、法定時間外労働の時間数137.8時間は少ないですが…なにぶん、例があり得ないくらい極端なもので…単月100時間という上限規制を、この時点で突破しています。どっちにしても、ダメですね。
仕事をしながら試験勉強に挑む受験生くんを、おばちゃん社労士としては応援してあげたいですが、応援するとすれば「ほどほどに頑張れ」、この一言に尽きます。
フレックスタイム制とテレワーク
テレワークでも、適正なフレックスタイム制は活用できる
最後に、テレワークにおけるフレックスタイム制について書いていきたいと思います。
厚生労働省『情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(雇用型テレワークガイドライン)』では「テレワークにおいてもフレックス制度を活用することは可能」とし、そのうえで、次のように注意喚起をしています。
フレックスタイム制は、あくまで始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる制度であるため、(当ガイドライン内に示したとおり、)「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づき、使用者は各労働者の労働時間の把握を適切に行わなければなりません。
これはつまり、
「仕事をするもしないも社員に任せたから、何時間働こうが、会社は知らん」
というわけにいかないということです。こちらの記事”労働時間管理の意義”の項でも触れたように、会社は①正しい給与計算、②安全配慮義務(社員の健康管理)のため、社員の労働時間を適正に把握することが例外なく必要です。
テレワークにフレックス制を活用するポイント
テレワーク導入に関する会社様の悩みに「社員がサボりそうでやだ」というものがありますが、同じくらい「会社の目の届かないところで、頑張りすぎる社員が出てくるのではないか」と危惧する会社様は多いです。
また、社員の中には「夜の方が仕事がはかどる」といって昼夜逆転生活をする人もいるかもしれません。
そういった場合に備え、コアタイム・フレキシブルタイムを決め、一定の縛りのなかで緩やかに社員に労働時間の配分を任せる仕組みづくりが必要となるでしょう。
コアタイムにはweb会議を定期的にスケジューリングして社員同士のコミュニケーション充足をはかったり、深夜時間帯の社内LANへのアクセスを拒否したりするなど、テレワーク×フレックスタイム制の制度設計ではシステム管理と馴染ませるよう、工夫していきたいところです。
終わりに
フレックスタイム制や時間単位の有給休暇制度などは、より柔軟な労働環境作りに役立つ、社員にとってありがたい制度である反面、労働時間の管理に煩雑さを感じ、制度導入をためらわれる会社様は多いかもしれません。
しかし今後は、離職率を下げ社員の定着をはかり、求人力を強化し優秀な人材を確保していかないと生き残っていけないようになります。つまり、多様な働き方を許容することが、企業規模に関係なく会社の生存条件のひとつになっていくでしょう。
フレックスタイム制は、多様な働き方を実現するための取っ掛かりにちょうどよい制度です。
中小企業でも、テクノロジーのおかげでだんだんと導入のハードルは下がっています。
例えば現在では、非常に優れた勤怠管理ソフトがメーカー各社からリリースされており、クラウド型であればイニシャルコストがさほど高額にはならず、勤怠管理が思ったほど大変ではなくなってます!
また、社内の人的リソースでは管理しきれないということであれば、弊所のような社労士事務所・専門家に管理を外注することも方法として十分ありです。
管理を楽にする勤怠管理ソフトについては、また別の機会に触れていきたいと考えていますので、お楽しみに♪
footnote/more information
厚生労働省『フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き』
厚生労働省『情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(雇用型テレワークガイドライン)』