日本郵便と最近の労務トピック~パワハラ防止法、同一労働同一賃金~
はじめに
今日見たyahoo!ニュースで、こんな記事がありました。
郵便局の過剰ノルマ、死選んだ配達員 自殺の翌日に届いた自腹の購入商品…妻「何でここまで」
9年前、苦しんだ末に自殺「夫の死を無駄にしないでほしい」。9日、大阪市内であった郵便局員有志による集会。マイクを握った埼玉県の女性(52)が切実に訴えた。9年前の2010年12月、郵便配達員だった夫=当時(51)=は勤務局の4階窓から飛び降りて亡くなった。年賀はがきの販売ノルマ達成や時間内の配達を執拗(しつよう)に求められ、苦しんだ末の自殺だった。
日本郵便や保険会社などの「自爆営業」はつとに知られる話で、この記事を読むだけでもその惨状が伺いしれます。ご遺族の心情をお察しします。
電通事件をきっかけに『働き方』への見直しに関する一連のムーブメント、とりわけ時間外労働の上限規制ができたように、このような厳しいノルマに対しても何らかの法規制が必要なところでしょう。本年に成立した「パワハラ防止法」にその辺りの抑止力を求めたいところですが、どのような指針が定められるのか、施行時期の決定と合わせて動向に注目したい労務管理トピックのひとつです。
今日この記事に目が止まったのには、パワハラ防止法を思い出した、そのほかにも理由がありまして。そ~んなくだらないことで腹を立ててしまう私が、ちっぽけな人間だということを露呈すること覚悟で以下書きますが…
とるに足らない愚痴です
とある郵便局での出来事です。
郵便局で扱っている“レターパック”はご存知でしょうか。郵便局で購入したボール紙製のパッケージに入りさえすれば、重量に関係なく不定形のものでも郵便禁止物を除くものは軒並み速達郵便なみのスピードで配達、しかも配達には記録をとってくれるというサービスです。
このレターパックはポストに投函してもよいのですが、その日私が郵送しようとしたのはポストの投函口よりも厚みのあるもので、ポストには入れられず窓口に預かってもらう必要のあるものでした。
営業時間内に郵便局の窓口に行ったのですが、たまたま窓口が混んでいました。
郵便局窓口の人に渡すだけなのに~。この列に並ぶのはなんかいや~。局内にはフロア案内をする係員がいたので、その人に預けられれば並ばずに済む!…そう考えたので、係員の方に話しかけました。
私「あの~、これを…」(とレターパックを指し示す)
係員「いえ、私はこちら(ゆうちょ銀行)の者なので。別会社なので。」
私「いや、預かってもらうだけ…」
係員「(食い気味に)別会社なので。こちら(日本郵便)で聞いてください」
係員、ゆうちょ銀行のカウンターの向こう側にそそくさと入る。
…
……。
………にべもない!取り付く島もない!何たるセクショナリズム!!怒
おそらく、(株)ゆうちょ銀行と日本郵便(株)が別会社だということを気にも掛けずそんなことを聞く私が、まずかったのでしょうね?!
いやでもしかし、あなたサービス業でしょう?一般の顧客から見ればゆうちょ銀行だろうが日本郵便だろうが同じ窓口だと思うのに、同じフロアにありながら別会社だなんて、別会社に関することは御用聞きさえしないなんて、そんなことはあなた方の都合であって。
ただ私はポストに入らないものを、あなたが代わりにポストになっていただけないかしら?ということを慇懃にお願いをしようと思い話しかけただけなのに。なぜ何も聞いてくれないの?用件を全てきいたうえで「あぁ、それなら申し訳ないのですが日本郵便さんにお願いします」とでも言ってくれればよかったのに、「別会社なので」としか言わないあなたは無能なの?気が利かないったらない!
それとも実は私が知らないだけで、日本郵便とゆうちょ銀行の間には北緯38度線があるの?ゆうちょ銀行の人間は日本郵便の仕事に一切かかわってはならぬ、一切話しかけてはならぬという決まりでもあったの?私、軍事境界線に立ってた?なぜ、私の用件を具体的に聞く前に、かぶせ気味に「しっしっ」とあしらうような言動を発するの?
最近、私の怒りの沸点が低くなっていて、ついカーーーッ!となってしまいました。それ以上何も言わなかった(というか、ゆうちょ銀行の係員が言わせる暇を与えてくれなかった)けどさ。
ぶっす~とした顔で日本郵便の窓口の列に並びなおし、前に並んでいたご婦人や小さい子連れのママさんに、「どうぞ、お先に」と気を遣われる始末。ああ、恥ずかしい。2歳くらいの女の子だったな、「怒ると女性は特におブスになるよ」という悪い見本を提供してしまいました。
でも、ちょっとひどいと思いませんか?そんなに怒るのは私だけでしょうか?
日本郵便といえば
少し前のことですが、こんな報道があり面喰った記憶があります。
日本郵政は、グループの正社員の住居手当を一部廃止する。引っ越しを伴う異動のない一般職約5千人を対象に、10月から支給額を年10%ずつ10年かけて減らす。対象社員は最大で年30万円超の減収になるという。寒冷地手当なども減らす。削減分はグループの半数を占める非正社員の待遇改善に充て、現場の人手確保につなげる。正社員の待遇を下げて格差を是正する。
無料で読めるこの日経電子版の記事内容だけだと「正社員の賃下げをするなんてけしからん」の一言ですが、もう少し背景を説明します。
労働判例で「日本郵便事件」と呼ばれる労働事件があります。日本郵便の時給制契約社員が、正社員に支払われている各種手当が契約社員に支払われていない、あるいは正社員にある休暇制度が契約社員に認められていないのは、労働契約法20条に定める『不合理な格差』ではないかという訴えを起こした労働事件です。
日本郵便をめぐるこの種の紛争は各地で起きていますが、東京地方裁判所での判決では「職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇かどうか」を各種手当ごとに判示しました。結果、「年末年始手当」および「住居手当」については、「まったく支払われないことは不合理だが、正社員と同等でなければ不合理であるとまではいえない」という判断をくだしました。
(その後の東京高等裁判所での年末年始手当・住居手当に関する判決内容は地裁での判決支持)
そのような判示があって、「一般職正社員の住居手当を段階的に減らす」という給与制度の改定をしたわけです。
…え、非正社員の給料を上げるのではなく、正社員の給料を下げる?え、そっちに行った?それで同一労働同一賃金を実現するの?報道があった当時は、とても驚きました。
・手当の引き下げを段階的に10年かけて行うこと
・「住居手当」の引き下げによって非正社員の処遇改善の源資に引き当てること
総じて、人件費総額を減らすことを目的としての給与改定ではない、あくまで非正社員含めたグループ企業全体の給与その他処遇を引き上げることを目的としている、という点において会社側からの一方的な改悪といえない面があります。
この「住居手当」引き下げに違法性があるかどうかは提訴されたのちの司法の判断によりますが、今のところそのような訴えはありません。2020年4月に施行(中小企業は1年猶予)される「パート・有期雇用労働法」において『同一労働同一賃金』が義務となるわけですが、労働条件の均等均衡待遇を目指していく中で、どうしても正社員の有利な労働条件を不利益に変更せざるを得ない場面も出てくるでしょう。日本郵便事件およびその後の給与改定の流れは、その際に参考としたい事例と言えます。
おわりに
ゆうちょ銀行でのやり取りで生じた、どうにもならない苛立ちをどこかにぶつけたいぶつけたいと思っていましたが、先にあげたニュースを読み、少し落ち着きを取り戻しました。
旧郵政公社のような歴史ある大組織であれば、企業体質を変えるにしても組織の圧力により一筋縄ではいかないことでしょう。もともと国民のインフラとしてスタートしており保守的な性格が強い。そこに郵政民営化の流れにより、営利企業として利益を追求するミッションが加わり、また通信技術の進展により郵便事業そのものの存在意義までが問われる状況になっている。そういう背景を引きずり、今はひずみが生じている状態なのでしょう。
労務施策にもそれが表れていて、正社員と非正社員とのあいだの不合理を解消するのであれば、それを源資に非正社員の処遇を改善するにしても、労働条件の有利な方ではなく不利な方に合わせる。かなりの大鉈振りです。
そのような事情を鑑みると、私が無能呼ばわりしたあの係員は(正社員か非正社員かはわかりませんが)、伺い知れない苦しみのなかにいるのかもしれないな、と。
会社の労務施策結果として検証してみれば、ES(Employee Satisfaction=従業員満足度)を上げないと、従業員は顧客に対して十分なサービスを提供することができず、CS(Customer Satisfaction=顧客満足度)を満たすことができない。それを実感するための機会だったに違いない。
…そう考えて留飲を下げた、「私の日本郵便事件」でした。
パワハラ防止法に同一労働同一賃金、どちらも「どこまで対応する必要があるのか、合法・違法の線引き」がわかりにくい内容です。ガイドラインを読んでもわかったようなわからないような、モヤっと感があります。適正な運用については、法改正や指針の裏側にある労働判例等への踏み込んだ理解が必要です。
パワハラ防止法やパートタイム・有期雇用労働法の適正な運用についてお悩みの会社様は、弊所にお問合せください。(原則、初回の相談は無料です)
footnote
(労働契約法第20条)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。