テレワーク導入に強い社会保険労務士「労務経営管理のぞみオフィス」

労務経営管理のぞみオフィス

【対応地域】埼玉県、東京都、千葉県、栃木県 (全国拡大予定)

0480-44-8014

電話受付時間 : 平日9:00~17:00 休業日:土日祝

メール対応は24時間受け付けております。

お問い合わせはこちら

「個人事業主化制度」は中小企業で実現できるのかー『タニタの働き方革命』を読んでの考察

はじめに

個人事業主化制度は、高度プロフェッショナル制度の一種

法改正のうち『高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)』を取り上げた際、株式会社タニタの“社員の個人事業主化制度”はいわば高プロ制度の亜種だ、という話をしました。

【2019年4月法改正:③】高度プロフェッショナル制度

もちろんそれは制度のある一側面をとらえてのことですから、個人事業主と労働法適用対象者である「高プロ社員」をすべて同列に扱うということではありません。

ただ、会社の目線でいうならば

  • 仕事の進め方を一任し、労働時間制を適用しない(残業代の心配がなくなる)
  • 給与(報酬)は契約の段階で成果に応じたものとする

という点が共通します。

この点だけを挙げれば、経営者であれば誰しも一度は考えたことがある「理想の成果主義評価制度」が実現されるかもしれない、そのようにお考えの社長さんがいらっしゃるかもしれませんね。

そんな社長さんあるいは総務ご担当者に向けて、タニタの個人事業主化制度「日本活性化プロジェクト」をかいつまんで紹介し、制度導入に係る注意点などを書いていきたいと思います。

違法なの?

ネット界隈では炎上に近いレベルで議論されたため、“タニタ 個人事業主”とgoogle検索するとたちまち”タニタ 個人事業主 違法”と予測検索ワードがあがるくらいです。

しかし「違法」というのは、暴論です。この本を読むかぎりでは違法と断定まではできません。

会社と社員の関係は、合法か違法かをばっさり断じられるほど単純なものではなく、どのような話し合いで合意にいたったのか、また実情はどうなのか現場をしらないことには何も判断できないからです。

少なくとも法律に対する深い見識をもった者ならばいざ知らず、曖昧な法知識や自分なりの“常識”をかさにマイノリティをたたくことは、粗野で非建設的だと思うのです。憶測だけでイメージを固定化してしまうのは楽です。他人事として頭の外に追い出し、マジョリティに同調すればいいだけですから。

中小企業で導入できる制度なの?

はじめに結論をいいますね。

私はこの本を読んだだけで、当事者であるタニタの元社員さんの話を直接伺ったわけでもなんでもありません。ですから“本を読む限り”という注釈がつきますが、当制度について私が正直に感じたことは以下の通りです。

「中小企業でこの制度を採り入れるのは、まず不可能。しかし今後、人手不足かつますます労働法の制約が厳しくなることが確定しているなかで生産性を上げる(少なくとも維持していく)ため、真剣に取り組む価値がある」

どのような制度か、まとめます

会社と社員との契約『雇用契約』⇒会社と個人事業主との『業務委託契約』

契約締結

・本人の希望・同意のもと

・3年契約、1年毎に更新

報酬

(1)ベースとなるのは、個人事業主となる前年の残業代含む給与・賞与額

(2)+会社が負担していた社会保険料、所得補償保険(就業不能保険)や小規模企業共済(退職金)など社会保障に関する部分を経費として本人にキャッシュで渡す。(※互助会をつくり社会保障に関する仕組みや受け皿を用意しておく)

(1)(2)合わせた報酬に見合う委託業務を「基本業務」とする。「基本業務」は個人事業主になる前まで取り組んでいた基本的な仕事を設定する。

(3)+「基本業務」以外の仕事をタニタが委託する場合は「追加業務」となり、「追加業務」に応じた報酬はインセンティブとして基本業務と別建てで渡す。

 

どのような点が「実現不可能」か

なんといっても「誰がどうやってまとめるの?」という点につきます。

社長?人事担当役員?総務部長?

…適任者をあげることはできるかもしれません。しかし、実際に取り組み実現にいたるまでの工数が測り知れません。なぜなら、中小企業の場合はほとんどの仕事が属人化しており、しかも一人ひとりに当てられる仕事内容が幅広すぎるため、社員それぞれについて「基本業務」を書面化する作業が非常な労苦となることが予測されるからです。

「あ、あの仕事も、この仕事も…年に一回だけのこの仕事はどうだろう?▲▲業務は、●●さんがいた時は●●さん担当だったけれど●●さんが退職した後は「できる人」の持ち回りでなんとかしているし…」

とても一人ひとりの業務の切り分けなんてできません。

万が一できたとしても、それに見合った報酬のシミュレーションまで、手が回るでしょうか?社員のこれまでの給与額を保障するために、緻密な逆算シミュレーションが必要です。個人事業主として計上が予測される経費の内訳やその金額、わかりますか?生活水準が下がらないような報酬体系を組み立てるのに、顧問税理士の先生が責任をもって数字を出してくれるでしょうか?

また、契約そのものの安定性はどうでしょう。

大企業であれば取引先も多く、2~3年後の将来にわたり契約内容に合う仕事がある程度確保できると予測できるかもしれません。しかし取引先が限定されている中小企業では、社員が安心して制度が利用できるような、将来にわたる委託業務を準備できるでしょうか?逆に社員の立場になってみると、誰が手を挙げるでしょうか?「切りやすい身分になれば、契約更新されずに切られるだろう」「リストラ対象になるだろう」そんな不安しか抱かないでしょう。

 

以上のような点をクリアしていかずに制度導入だけ進めるのは、たちまち労働問題として発展します。

裏を返せば、綿密な制度設計をおこない社員と丁寧な交渉を重ねることができるのであれば、制度導入のスタートラインに立てるということです。タニタがそれを可能としたのは、社員との信頼関係を育むことを怠らず取り組んだからだと思います。

取り組む価値がある点とは

中で私が非常におもしろいと思った部分があります。

委託する業務は「基本業務」と「追加業務」とにわけ、基本業務に対する報酬を決めるというところから委託契約を作りこんでいきます。この点には関して次のような記述があります。

 従来のメンバーシップ型企業では、業務内容が曖昧であるがゆえに、「同じ給与なのに、次々と新たな業務が付け加えられる」といった事態が起こり、働く側も不公平感や不満を持ちやすい面がありました。それを、個人事業主への移行を機に業務内容を「基本業務」と「追加業務」とにしっかりと分け、一つひとつの仕事にきちんと「値付け」するという発想です。

付け加えて言えば、会社の中で「この仕事はいくら」という相場観が形成されていく効果にも期待しています。

『タニタの働き方革命』p57

「基本業務」と「追加業務」の切り分けはタニタでも手探り状態。これに関するメンバーのインタビューの中には、このような記述がありました

「もちろん、こちらの方から『これは、”追加業務”ですよね』と言って交渉もできるのですが、そこはやはり信頼関係で成り立っているところがあるんです。こちらも追加だという場合は、法外な値段を出したりせずに常識的な価格を提示しなきゃいけないでしょうし、依頼する側も『タダでやって』と強制したりしない。そういう関係を日頃からつくっておくことが大事だと思います。」

『タニタの働き方革命』p164

一つひとつの仕事に関する「値付け」があり、発注者受注者双方から「相場観」が醸成される。これは、仕事の可視化とその仕事に相応する報酬が決まっていく流れができていくということです。

『同一労働同一賃金』は2020年4月以降の法改正事項ですが、労働の対価としていくらが適正なのか判断する基準が「個人事業主化」の流れからも生じてくる、ということに気づかされました。

 

おそらく今後、このような働き方は企業体力のある大企業を中心に増えていくと考えられます。社員側が主体的に選べる働き方の選択肢を増やすことが、強い求人力をもつことに直結するからです。ICT技術により場所に制約されない働き方がだんだんと市民権を得るようになっています。中小企業にまで浸透するまでには時間がかかるかもしれませんが、それでも確実にフリーランスが徐々に増えていくに違いありません。

現状はフリーランスを守るのに十分でない労働法が、フリーランスを取り込む形となるか、別体系の法律となるかはわかりませんが、いずれにしろフリーランスを守る方向へと法制度がつくられていくことでしょう。そうなると、ますます優秀なフリーランスに仕事にアサインしてもらうための仕組みづくりが会社に求められる時代になっていくことが考えられます。

同一労働同一賃金を遵守するにしても、仕事のアウトソーシング化やRPA、AI等を利用し業務の効率化をはかるにしても、『業務の可視化』は避けて通れないようになっています。

 

そのような意味では、もし業務遂行能力、セルフコントロール能力に長けた社員が「個人事業主化」制度を望むのであれば、取り組む価値が非常に高いと思います。取り組むなかで、業務の可視化が実現され、会社として総合的なマネジメント力が否応なしに上がることが期待されるからです。

おわりに

タニタが目論むような成果が本当にでてくるか、制度として取り入れて2年経っておりませんので、まだわかりません。

  • 会社の経営成績がどのように変化したか
  • どのようなイノベーションがもたらされたのか
  • 適用メンバーが今後も増えていくのか
  • 長時間仕事をするメンバーに対する健康障害をどのように防止していくか※

などの点がどのような結果となるかを見てみないことに、試みが成功したか判断できませんので、今後も注視していきたいと思います。

※タニタは「健康企業」として社員の健康モニタリングなどにも取り組んでいます。会社から独立したメンバーの健康相談などを互助会で扱っているのかどうか本の中では触れられていませんでしたが、何らかの取り組みをしているのかもしれません。


最後に宣伝を。

個人事業主化制度の実現について、中小企業では「無理」と断言しましたが、専門家に相談しながらであれば実現できるかもしれません。はっきり言って茨の道ですが、やってやれないことはないでしょう。

社労士事務所である弊所では、報酬の決め方や社会保障に関する部分について相談に応じますので、「本気で取り組む!」とお考えの会社様がいらっしゃいましたら、↓ピンクの≪無料相談してみる≫ボタンからお気軽にお問い合わせくださいね。

 

無料相談してみる

Return Top